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弾道弾の飛翔技術の基礎 |
始めに |
ロケット推進による飛翔段階 (Powered Flight) |
大気圏再突入段階 (Re-entry Phase) |
再突入弾道の決定 |
高熱対策 |
弾道の誤差 |
まとめ ← 現在の頁 |
これまでに説明してきた弾道弾の弾道誤差について、一言で言うと、第一段階の推力飛翔において誘導システムはこれらの誤差を補正する、あるいは最小限に抑えるように機能しなければならない、と言うことに尽きます。
つまり、弾道弾が所要の目標範囲内に弾着するためには、推進ロケット燃焼終了時の速度ベクトルを極めて精密にコントロールして、所望の弾道軌跡での飛翔を達成できる必要があると言うことです。
一般的な弾道弾において要求される推進ロケット燃焼終了時の各要素の精度は下表のとおりであり、これを 達成し得て初めて 99.9%の有効性が発揮可能 とされています。
誤差要素 | 要求精度 |
位置誤差 | 1/2マイル以下 |
方位誤差 | ± 1分以下 |
速力誤差 | 1 〜 2フィート/秒以下 |
仰角誤差 | ± 1分以下 |
さて、弾道弾の飛翔技術の基礎について説明してきましたが、最後にもう一つ重要な事項が残っています。 そうです、地球自転の影響の問題です。
射程が長く、飛行秒時も長いので、この問題への対応は弾道弾の飛翔技術としては必須のことです。 しかしながら、この地球自転の影響の問題は既に艦砲射撃の場合について本家サイトの 『砲術の話題あれこれ 第7話』 として採り上げております。
射表などの細かいことを除けば、基本的な理論については同じですのでそちらをご参照いただくとして、本項では省略することといたしますのでご了承下さい。
冒頭の書きましたように、本項は昨年2月に北朝鮮が行った弾道弾発射実験についての報道を切っ掛けとしてブログで連載したものを纏め直したものです。
その後北朝鮮はSLBMやムスダンなど立て続けに打ち上げ実験を行い、そしてそのほぼ全てで失敗しました。 そして、今年に入ってようやく “何とか弾着まで飛ぶことは飛ぶ” という段階になっています。
しかしながら、弾道のことや弾頭の再突入のことを含め、技術的にはまだまだ弾道弾の初期段階さえ満足に完成していない状態であることが判明しています。 米国本土どころか、日本にとっても真の脅威となるような本当の弾道弾の完成はまだ当分先のように思われます。
もちろん連載冒頭に書きましたように、どこに飛んでいくのかわからない、本当に核弾頭の小型化に成功しているのかも判らない、という状況での単なる政治的なプロパガンダやブラフとしては別の話ですが ・・・・
平成29年5月14日に北朝鮮は極めて弾道の高い、いわゆる 「ロフテッド」 (lofted) 弾道 による新型の弾道弾の発射実験 を行い、大気圏再突入時に燃え尽きずに一応弾着まで完全飛翔したとされています。
これについて、マスコミなどでは海自OBなども含めて単に “高速で落下するため迎撃が極めて難しい” というだけの論評が流れています。
しかしながら、本項をお読みいただいた方にはお判りいただけるように、長射程のものを上に打ち上げたからと言って特に高速で落下するわけではありません。 長射程であれば燃焼終了時の弾速が早いのは当然であり、ほぼこの時の速度で大気圏に再突入することに変わりが無いことには注意すなければなりません。
しかも、所期の精度で弾着させるためには極めて多くの技術的な問題を解決しなければなりません。 今判明しているのは “ただ飛んだだけ” であって、それ以上のことは実用の弾道ミサイルとして役に立つのかどうか全く不明です。
そもそも北朝鮮が、満足な追尾、計測、観測の手段を持っているのかさえ判りません。 実際のところ、この時の実験でも弾着海面付近には観測設備もなく、観測船も配備されていなかったようです。 北朝鮮東岸からでは最も肝心なところの測定さえできないのですから。
これらのことをキチンと押さえずに、ただ単に “脅威だ、脅威だ” と騒いでいるだけでは、私からすればそれこそ北朝鮮の宣伝に踊らされているだけのようにしか見えません。
(この項終わり)
最終更新 : 19/May/2017