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弾道弾の飛翔技術の基礎




本記事は平成28年の6月に同年3月の北朝鮮の弾道ミサイル発射実験の報道などを受けて私のブログ 『桜と錨の気ままなブログ』 で連載したものですが、最近の通称 「ロフテッド」 と言われる高仰角で極端に高く打ち上げる飛翔パターンによる発射実験に関連して、もう一度この弾道弾の飛翔技術の基礎を思い出していただきたいと考えてこちらに纏め直すものです。


  始めに ← 現在の頁
  ロケット推進による飛翔段階 (Powered Flight)
  大気圏再突入段階 (Re-entry Phase)
     再突入弾道の決定
     高熱対策
  弾道の誤差
  まとめ



 始めに


平成28年2月7日に北朝鮮が打上げたロケット (北朝鮮名 「 銀河 (ウンハ、Unha)」 については、1993年以降これまで8回の打ち上げ実験を行った時と同様に、当の北鮮は衛星打上げだといい、諸外国は弾道弾 (Ballistic Missile) の実験と主張しています。

( 平成29年に入ってからは、もう人工衛星とはとは言わず、堂々と弾道弾であることを公言して憚らなくなったことはご承知のとおりです。)


( 元画像 : 当時の朝鮮中央テレビ放映の画像から )


そしてこの時のロケット技術としては、搭載物 (それが本当の衛星であるかどうかは別として) を大気圏外へ運び、そこでこれを切り離すところまで行ったことは確かなようです。 もちろんそれが意図した速度で意図した軌道に乗ったのかどうかは判りませんが。

ではこれを諸外国が言う弾道弾の実験として見た場合はどうなんでしょうか?

確かにロケットとしての基礎的な技術には両者で同一のところ、似たところがかなりありますが、しかしながら異なるところも多いのです。

その際たるものが 弾頭の放出と大気圏 への再突入でしょう。 これが上手く行かなければ弾道弾としての意味はありません。 そしてもう一つが 飛翔経路 です。

衛星ならば最終的にその所要の衛星軌道に乗せるための高度と方向となるように打ち上げますが、弾道弾なら大気圏外において弾頭が目的地に到達するための放物線を画く軌道に乗るように打ち上げます。 これらの違いについて、きちんと踏まえた上での論評・報道かどうかを判断する必要があるでしょう。

実際のところは大気圏外まで物を運ぶロケットとして十把一絡げにして、これらを曖昧なままにしたニュース・メディアなどが多いのですが ・・・・

弾道弾の飛翔については、打ち上げから弾頭の弾着まで大きくは次の3つの段階に別かれます。


     ロケット推力による飛翔 (Powered Flight)
     大気圏外における自由飛翔 (Free Flight)
     大気圏再突入 (Re-entry)


( 図 : 米海軍資料より Total Ballistic Missile Trajectory )


平成28年のこの時の北朝鮮の打ち上げが例え弾道弾の実験であったとしても、実はこの3段階について 第2段階の始めまでしか実証し得ていない のです。

ハッキリいえば、まだまだ弾道弾としての実用化にはほど遠い段階と言えます。 この時の今回の成功 (?) によって、何がしかの搭載物 (ペイロード、Payload) を大気圏外まで運び、それを切り離して軌道 (それが意図したものかどうかは別として)に乗せるまでの技術があることを証明しましたが、それでもまだまだここまでです。

したがって、弾道弾として肝心なそれ以降のことは不明です。 まだ一度も実証したことがないのですから。

確かに、例えどこへ飛んでいくか (弾着するか) 解らない、そしてもしかすると小型化に成功した核弾頭を搭載しているかもしれない、というものであっても、政治的なプロパガンダとして、あるいはブラフとしてはそれなりに有効かもしれませんが、実際の実用兵器として見るならば中途半端なもであることは論を待ちません。

そこで、弾道弾として要求される飛翔の基礎的な理論・技術については、案外一般出版物にも、またネット上でもあまり見られないものですので、この機会に私なりにお話しをしてみたいと思います。

もっとも、現在の米ロの近代的な大陸間弾道弾 (ICBM、Inter-continental Ballistic Missile) では多弾頭 (MIRV、Multiple Independently-targetable Re-entry Vehicle) 化されているが普通です。 この複数の弾頭をそれぞれの標的に正確に命中させるためにこれを順次放出していくのは、これまた高度な技術を要します。


( LGM-180 Peacekeeper 多弾頭の再突入写真 米陸軍SMDCの公式サイトより )


この多弾頭の話しも大変に面白いものですが、今回はこのことはひとまず横に置いておいて、取り敢えず北朝鮮がその開発を目指しているであろう単弾頭の場合に絞らせていただきます。

もちろん私のブログですから、一般文献からの引用などではなく、ご来訪の皆さんに興味を持っていただくために米軍の資料を根拠としますが、具体的なデータなどになりますと秘密事項に関わりますので、海軍兵学校やNROTCなどでも教えている程度の一般的な概要の範囲とします。 しかしながら一般の方々にはこれでも十分なレベルの内容と思います。


それでは本論に入りますが、その前に、 弾道弾の打上げの時に (衛星などの打ち上げでも同じですが)、短距離弾道弾 (SRBM、Short Range BM) の場合は地上の発射機から射距離に応じた弾道軌跡の射角をもって発射されるのが多いですが、中距離弾道弾 (IRBM、Intermediate Range BM) 以上の場合は発射台から垂直に打上げられます。


   


これは何故なのかその理由をご存じでしょうか?







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最終更新 : 19/May/2017