対空戦・TMD

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弾道弾の飛翔技術の基礎




  始めに
  ロケット推進による飛翔段階 (Powered Flight) ← 現在の頁
  大気圏再突入段階 (Re-entry Phase)
     再突入弾道の決定
     高熱対策
  弾道の誤差
  まとめ



 ロケット推力による飛翔段階


弾道弾打ち上げの最初の段階である ロケット推力による飛翔段階 (Powered Flight) は、地上の発射機からロケット推進により大気圏外まで打上げて、所定の速度で所定の弾道軌道に乗せる (= ロケット・エンジンの燃焼終了) までの期間です。

この第1段階は、更に次の3つの段階に細分されます。


     発射と垂直飛翔 (Launch and Vertical Flight)
     無揚力飛翔 (Zero-Lift Flight)
     定姿勢飛翔 (Constant Attitude Flight)


( 図 : Typical powered trajectory for IRBM )



  (1) 発射と垂直飛翔 (Launch and Vertical Flight)


飛翔距離が短くその大部分が大気圏内である SRBM を除くと、基本的に IRBM 以上の弾道弾は地上の発射台から垂直に発射され、引き続き短期間そのまま垂直に上昇します。

そこで前回お尋ねしたこの “何故垂直に打ち上げるのか” ということです。

これについては多くの場合、大気圏を早く抜けて空気抵抗を受けることのない真空弾道 (放物線) 軌跡に乗せるためため、という説明が見受けられることをご存じの方もおられると思います。 確かにこれも正解の一つではあります。 しかしながら、本当の理由は次の3つの方がより重要 なのです。


まず一つ目が、空気抵抗と燃料の関係です。 ロケットに搭載すべき必要な燃料の量は、速度と飛翔距離、そして弾道弾の打ち上げ重量に比例します。 そしてこのいずれにも大きく影響するのが空気抵抗です。

このため空気密度が濃い、即ち空気抵抗が大きい地表近くを可能な限り早く抜けるために垂直に打ち上げることが求められます。 これによって燃料の量を少なくて済むようにし、かつ打ち上げ重量を減らすことができます。 そして空気による摩擦熱の影響を最少にすることができます。

反対に、もし打ち上げ重量を同一とするならば、燃料の必要量を減らせればその分より大きな搭載物 (payload) を積むことが可能 になることを意味します。


二つ目が弾体の構造の問題です。 可能な限りペイロードを大きくし、かつ打ち上げ重量をできるだけ小さくするためには、弾道弾の弾体構造そのものを可能な限り軽くする必要があります。

このため通常は、弾体の弾軸 (縦) 方向の強度は高く、横方向の強度は比較的低くして限定的な耐加重の範囲で設計されることになります。 そして、これを垂直に打ち上げることによって、荷重や空気抵抗、重力を弾軸方向で受けることでこれに対処することが可能になります。


そして三つ目が発射機の問題です。 弾道弾が大きくなればなるほど、発射機の構造が複雑となり重量が増えます。 これを最少に押さえるためには、弾道弾を垂直に保持してこの状態から打ち上げることです。


3つとも言われればすぐに納得できることばかりですが、これらの理由をキチンと整理して説明しているものは少ないですね。

この垂直発射方式ですが、発射機に垂直に置かれるが故に弾道弾の全重量は下の発射台 (Launch Pad) で支えられ、かつロケット・エンジンに点火後、推力が十分なレベルに上昇するまでの間、発射台により弾道弾の下部を拘束するようになっています。

そしてこの垂直発射において最も重要な点は、ロケット・エンジンに点火直後の速度がまだゼロに近い最初の数秒間、弾道弾の姿勢を垂直に保たなければならないことです。

これは、発射時の弾体の横方向に加わる外力、例えば突風による偏位や傾きなどに対して、エンジン後部に取り付けた偏向板 (deflecter vanes) を操作してロケット噴射の流れの向きを変化させ、あるいはロケット・エンジンそのものを垂直に保つ機構にすることにより、弾体の縦軸に対する推力方向を変えて弾体の姿勢のバランスを取ることで制御します。 弾道弾によっては、これに加えて小さな補助ロケットを装備して、これにより一時的なサイド・スラスターとして使うものもあります。

これらによる姿勢保持は弾道弾の制御システムによって自動的に行われますが、打ち上げ重量が大きくなればなるほど高度な技術を要することはお判りいただけると思います。



   (2) 無揚力飛翔 (Zero-Lift Flight)


前述のように、中距離弾道弾以上は垂直に打ち上げられることになりますが、とは言っても限られた搭載燃料を有効に使うには、出来るだけ早い時期に所要の速度まで加速して本来の弾道軌跡に乗せるようにすることが好ましいことには変わりはありません。

そこで、まだ大気圏内ではありますが、空気密度がそれなりに薄くなったところまで上昇したところで、徐々に徐々に 弾道弾を旋回させていくことになります。

徐々にといいますのは、これも上の (1) で説明したように、弾体の構造は横からの荷重に対しては強くできていませんので、薄くなったとはいえ空力的に生じる旋回荷重の影響を出来るだけ小さくしなければならないからです。

このため、ロケットの推力の方向を少し変えては元の弾軸 (縦) 方向に戻し、また少し変えては戻すということを幾度か繰り返すという方法をとります。 推力のバランスをとりながら弾道弾の重心をゆっくり移動させて、少量かつ一時的な旋回モーメントとなるようにして、弾体に出来るだけ横荷重がかからないように制御システムによって慎重にコントロールしていくのです。

この旋回のことを 「無揚力旋回」 (zero-lift turn) あるいは 「重力旋回」 (gravity turn) と言います。



   (3) 定姿勢飛翔 (Constant Attitude Flight)


ほぼ大気圏を抜けだし、かつ無揚力旋回を終えて射角 (φ) となったならば、今度は直進して所要の弾道を描くに必要な速度 (V) まで加速することになります。 この時、空気抵抗はほぼ無視できるようになりますので、下図のように弾道弾は重力に応じた分だけの上向き姿勢で直進します。


( 図 : constant attitude flight outside earth's atmosphere )


弾道弾は飛翔経路に対して一定の上向き姿勢を維持して飛翔しますので、この段階を 「定姿勢飛翔」 と言います。

この時の射角 (φ) は、所要の弾道軌跡となるための最終的なロケット燃焼終了時の仰角 (burnout angle) (φ) と ほぼ 同じとなります。 両者の差の大部分は僅かとはいえ空気抵抗に対する修正の分ですが、これによる弾体に対する横荷重は既に無視できる程度のものとなっています。

ロケットの燃焼終了時に近くなると、誘導システムよって推力の向きを僅かに変えて、最終的に弾道弾が正確な速度方向となるように微修正します。

そして所要の速度で所要の弾道軌跡に乗ったところで、誘導システムによりロケットの燃焼を停止します。

第1段階における最終的な燃焼終了高度 (burnout altitude) (h) と飛翔水平距離 (R) は、個々の弾道弾に関する具体的なデータがあれば計算、あるいは作図が可能です。 一般的な IRBM の場合を例にとると、下図に示すようになります。


( 図 : typical powered trajectory for an IRBM )


大体において、燃焼終了高度 (h) は約40万フィート (約12.2km) 前後、飛翔水平距離 (R) は約70マイル (約130km) 程度です。

これがICBMになりますと、ロケット推進の時間はより長くなり、射角は小さくなります。 一般的なICBMの場合、h は大凡100万フィート (約30km)、R は100〜125マイル (約185〜232km) 程度です。

この定姿勢飛翔から先は、弾道弾は真空中における弾道軌跡を描く、第2段階の 「自由飛翔」 (Free Flight) になります。 この自由飛翔段階については、中学や高校の物理で習われた放物線のことと同じですので、説明は不要でしょう。







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最終更新 : 19/May/2017