対空戦・TMD

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海上自衛隊のシステム艦第1号



  「たちかぜ」 と 「あさかぜ」 
  アナログからディジタルへ
  WES とは
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 WES 導入の本質


前述のとおり、WES はデジタル・コンピューターを使用し、NTDS の技術を応用したものではありますが、実態は新型の武器管制装置の一種であったわけです。

しかしながら、当然そこには当時米海軍現用の NTDS に関する考え方 (フィロソフィー)、システム開発手法、ソフトウェアのアルゴリズムなど が盛り込まれており、これらを WES そのもののと一緒に米海軍から導入することができたのです。

海上自衛隊にとっては WES は一つの装置ではありますが、そのことよりむしろ これらの有形無形のものこそがその導入の最大の成果 であり、今後の艦艇情報処理システムのあり方を示す羅針盤となるものでした。 (と言うより、なる “はず” でした 。)

つまり、「たちかぜ」 型を海自の “システム艦” 第1号と呼ぶ本当の意味と意義はここにあった のであり、当時の PGC の 「大熊学校」 で教育を受けた者達はこれらのことを徹底的に教え込まれたのです。

ところが、海幕に勤務する者や、この大熊学校に入校せずシステムというものの本質を学ばなかった者、あるいは中には学んでもそのことを理解できなかった者達には、結局のところ WES は一つの装置としての見かけの姿でしか判らなかったと言えます。 いや、判らなかったというより、制服を着た能吏達にとっては必要なかったと言うべきでしょう。

このため、折角これらの重要なことを導入し得たにもかかわらず、単なる装置としてしか見なかった結果の典型例として、WES を真似して国産開発したとする先の 「はつゆき」 型システムの OYQ-5 と、それに続く DD のシステムとなって現れてしまったわけです。


更には、「たちかぜ」 型3番艦として予定されていた 50DDG は、予算の関係で更に3年遅れて 53DDG の 「さわかぜ」 となったのですが、当初海幕は何も考えることなく 「たちかぜ」 型の WES をそのまま装備することで計画しました。

ところが、これに驚いたのが米海軍です。 海自は一体何を考えとるのか、と。


米海軍では海自の WES の開発成功を見て、これを参考にして DDG-2 級の古い WDS Mk-4 を更新するための JPTDS (Junior Participating Tactical Data System) を開発しました。

(注) : 一般には海自の WES はこの DDG-2 用の JPTDS を参考にしたと流布されるものがありますが、既にお話ししたことがありますように、これは誤りで逆です。

JPTDS はその名が示すように、単なる WDS の更新ではなく、初めからミサイル駆逐艦用の簡易型 NTDS として計画・開発されており、メインのコンピューターには最新の UYK-7 を2台、そして実際の装備は少し遅れましたが データ・リンクの Link-11 の機能を盛り込んだものです。 このためもあって、JPTDS は後に NTDS (DDG-2) と改称されることになります。


( UYK-7 2基 (2ベイ) タイプ 「さわかぜ」 はこれの1基タイプ )

そして何と言っても、この DDG-2 クラスの近代化計画において、ターター・システムについては WDS のJPTDS への換装だけではなく、三次元レーダーが SPS-52B からデジタル化された -52C へ、ミサイル射撃指揮装置の Mk-74 や ミサイル発射機の Mk-13 もデジタル化されたもの、つまり デジタル・ターター・システム (一般に ターターD と呼ばれます) に更新されることになっていたのです。

特にこの時点で注目すべきは、先の SPS-48C に続き 改良された SPS-52C によるデジタル化された信号情報を用いて、そして DDG-2 クラスの近代化のために開発された二次元の対空及び水上レーダーのアナログ信号をデジタル化する RVP (Radar Video Processor) により、全ての捜索用レーダーの目標の自動探知・自動追尾が可能となり、かつ BVP (Beacon Video Processor) により IFF の Mode-U 信号を使用した目標の自動追尾及び自動味方識別も可能 となっていました。

そして、このSPS-52C、RVP 及び BVP による目標の自動探知・自動追尾の機能をコントロールするために AN/SYS-1 というシステムが開発され、これによる目標データを JPTDS のコンピューターに取り込めるようにしたのです。


( AN/SYS- ( ) の構成概念図 )

そこで、米海軍は海自に対して “提供するミサイル・システムは新しいデジタル化したものになるのだから、WES ではなく JPTDS を真似したシステムにすれば良いだろう、コストもそれ程増えないのだから” と言ってきたのです。

海自としてはその必要性の有無を検討するまでもなく、ターター・システム一式を FMS で調達する以上米海軍の言うことには当然 “No” と言える訳はありませんから、目出度く 53DDG は WES ではなく、JPTDS の技術を利用した新しいシステム となり、もちろんコンピューターは新型の UYK-7 となって余裕がありますので、Link-11 機能も装備 されました。 これが 「さわかぜ」 の OYQ-4 となって実現したのです。


ただし、折角米海軍からリコメンドがあったにも関わらず、目標の自動探知・自動追尾は三次元レーダーの SPS-52C の機能のみ となり、RVP による他の対空・水上捜索用レーダーの機能は採用されないこととされてしまいました。 米海軍は海自の OPS-11C や OPS-28 でも問題なく可能だと言っているのに、です。 ( 理由はおそらく、わずかな予算の増加をケチるためではないかと )



( 米海軍による海自への RVP 採用のリコメンド文書の一部抜粋 )

このため、この捜索用レーダーと CDS とを繋ぐ機器は、米海軍は DDG-2 近代化用と同タイプの AN/SYS-1 を考えていたのですが、わざわざ海自向けの JADT (Japanese Auto Detection and Tracking) という機能限定版のものを作ることに なったのです。

もう何とも勿体ないというか、情けない話しで ・・・・ (^_^;







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最終更新 : 01/Mar/2020