対空戦・TMD

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PAC-3では23区は守れません




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先の2001年の段階でこの状況を見通せた米海軍が、いかにイライラしたかがお解りいただけたと思います。

そこで業を煮やした当時の米海軍作戦部長 (CNO) と米海兵隊総監 (CMC) は、連名で統合幕僚会議議長 (CJCS) に意見書 ↓ を出したんです。




要は、海外への展開・遠征とならざるを得ない米軍にとってのミサイル防衛は、能力が低い上に手間暇がかかる PAC-3 や訳のわからない THAAD などは放っておいて、それらよりは遙かに能力が高く、かつ既に実用化の目処が立っている NA と NTW でいいじゃないか、ということです。

実に的を得た正論であったわけです。

ところが、これに対する CJCS の返答 ↓ は予想通りというか、実に政治的・官僚的なものでした。




形式的には NA と NTW の能力の高さを認めたものの、可及的速やかに陸上と海上の両方の大気圏内対処 (Lower Tier) システムが必要としたのです。

縦深防御といえば聞こえはいいですが、早い話が “縄張り” “既得権” を認めたと言うことです。

がしかし、これは言い換えれば、いかに今後の米軍再編の中で、米陸軍が海軍・海兵隊に比較して兵力削減の危機感を抱いていたのか、の現れでもあります。

( その危機感の元は、冷戦終結後の今日、生起予想脅威に対する米国の必要軍事力の見積もりで、海軍・海兵隊 (= 通常両者を合わせて 「Naval Forces」 と言います) に対して、陸軍という元々の本質がいかに、即応性、柔軟性、多用途・多機能性、自立性、機動性と言った現代戦遂行上必須な性質に欠けるかと言うことなんですが。 まあ、これの詳細については別の機会に。)



それでは、日本の場合に戻ってみましょう。

2003年に閣議決定された 「弾道ミサイル防衛システムの整備等について」 に従い、現在の海自のイージス艦が持とうとしている、いえ既に持ちつつあるものは、大気圏内対処の NA (Navy Area) システムなんでしょうか? それとも大気圏外対処の NTW (Navy Theater Wide) システムなんでしょうか?

そう、後者の NTW なんです。 では当時何故、前者を選択しなかったのでしょう?

実は簡単で、海自が当時実に上手く立ち振る舞った結果なんです。 つまり、NA の能力は、米海軍は基本的に全てのイージス艦が持つことで整備を進めています。 それに対して NTWは 、米海軍でも特定のイージス艦のみ改造されてその能力を持つことになっています。

当初、米海軍では4隻のみがこの NTW に改造されることになっていました。 しかしながら、NTW の予期された以上の成功により、現在は更に隻数を増やすことにしています。 ということはどういうことになるのでしょうか?

ご存じのとおり、海自のイージス・システムは “ブラックボックス”、即ちその維持管理の全てを米海軍に任せる方式を採っています。  したがって、米海軍のイージス艦のほとんどが NA の能力を持つようになると言うことは、もし海自イージス艦と同時期に建造された米海軍のイージス艦が NA の能力を有するようにシステムが更新されると、海自のイージス艦も “自動的に” この能力を持つことになります。

つまり、国会でわざわざ “イージス艦をTMD用に改造する” と言わなくても、黙っていても通常の米海軍による維持管理の中でこの NA の能力を持つことになるのです。 PAC-3 など問題にさえならない能力を。 (もちろんそのためにシステムの更新のためのお金がかかりますが)

後はまだ海自が持っていない SM−2 Block WA というミサイル弾だけを別に購入すればいいのです。 しかもこの弾は通常の対空用にも全く同じように使えますから、その気になれば SM-2 ミサイル弾の補充名目でも買うことは可能でしょう。

これに対して NTW の方は、イージス艦を “改造する” と言って防衛予算を新規に取らなければなりませんし、米海軍に対して “特別に改造してくれ” と注文を出さなければなりません。

ですから、空自が当時まだ開発中であった THAAD でなはしに、既に実戦化に進みつつある PAC-3 を選択したのに対し、海自は当時まだ開発中だった NTW を選択しました。 これが TMD についての政府の防衛政策として決定されたのです。

海自は行く行くは全てのイージス艦をこの NTW に改造することを考えています。 即ち、全艦が NTW と NA の両方の能力を有することもあり得ることになります。 これは凄いことです。

もう一度その能力を見てみましょう ↓ この両方の能力を全イージス艦が保有するのです。




それに対して空自は、既に示してきたように、TMD ではせいぜい拠点防禦にしか役に立たない “PAC-3 しか” この先も当分はないのです。

海上自衛隊は実に上手くやったと思いませんか?


(注) : 本項で引用した画像は全て米軍の公式公開資料からです。







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最終更新 : 15/May/2017