対空戦・TMD

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PAC-3では23区は守れません




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そこで、前の頁で出てきた 2001年 というのに戻ってみます。  あの公表資料が作られた2001年の時点で、米軍が考えていた対弾道弾の防御手段は ↓ の5つでした。




この内、大気圏内対処 (Lower Tier) のPAC-3とNA (Navy Area) は、既存のものの応用と言うことで、初期段階の実用化直前というところに来ていました。

そして次の段階の大気圏外対処 (Upper Tier) でも、米海軍は NTW(Navy Theater Wide) については既に早期実用化の目算が立っていたのです。 それは当然でしょう、イージス・システムを少し改修して使うだけなんですから。

その一方で、新規開発である米陸軍の THAAD (Theater High-Altitude Aie Defence) システムの方はこの時既にもう10年以上かかっているにも関わらず全く目途が立たない状況でした。

( 当時何をやっても上手く行かないため、イスラエルのアロー・ミサイルの技術を導入しても結局はダメ。 捜索用のXバンド・レーダー以外は全くものにならず。 現在やっとそのプロトタイプが先日韓国に配備されましたが、実験成果もほとんどなく、果たして使い物になるのかどうかその信頼性は不明なままです。)

で、米海軍・海兵隊は業を煮やしたんです。  能力が大してない上に厖大な手間暇のかかるPAC-3や、まともに使い物になるかどうかさえ解らない THAAD などは後回しにして、海軍のイージスを使うNAとNTWの配備を最優先すべきだ と。

それはそうでしょう。 SM-2ブロックWAというミサイルを使う Navy Area からして、その有効射程はPAC-3とは全く比較になりません。 これは既に第1回で示したとおりですが、もう少し具体的に現すと ↓ のようになります。




イージス艦の位置をそのまま横須賀なり品川沖に移動して、有効射程の楕円の長軸を北朝鮮の方向に回転させてみて下さい。 どれだけの能力があるのかお解りになると思います。

これ、既存のイージス・システムに若干の改良をすれば、あとはSM-2 WAというミサイル弾を積むだけで、全てのイージス艦が、艦・装備・人員をほぼそっくりそのまま使えるんです。 イージス艦本来の能力を何等落とすことすること無しに。

それどころか、PAC-3 での決定的な弱点である C4I については、元々イージス艦そのものが強力な能力を持っています。  しかも、PAC-3 のように厖大な手間暇がかかることは全くありません。 全世界の海洋に前方展開している艦隊から、所要のところへイージス艦を “自分で少し移動” させればよいだけです。

加えて、イージス艦そのものが多目的・多用途であり、自分で洋上機動し、自己防禦能力があり、後方・補給関係の基地機能は自ら保有する、という “軍艦” の特性をそのまま持っていることは言うまでもありません。

パトリオット部隊などは自立出来ない上に、早い話が “防空しか” 使い道がないんですから。

先のNA (Navy Area) システムは、あっさりと開発できてしまいまして、2003年には仮配備、2004年からは本格的な実戦配備が始まったのです。 この能力は新造艦のみならず、就役済みのものも多少改修さえすれば全イージス艦が保有できることになります。

( このため、改造だけでは済まない古い機器で構成されるシステムを保有するイージス艦は、早期退役に追い込まれています。 例えばイージス艦の代名詞的な1番艦である有名な 「タイコンデロガ」 など初期のものです。)

そして、米海軍は次の大気圏外防禦システム(Upper Tier)であるNTW (Navy Theater Wide) の本格的な開発に移行しました。 しかし、これもその第1段階のものは予想を遙かに超えて早く出来上がってしまい、2005年には実験艦がそのまま仮配備、2006年には本格的な実戦配備が始まってしまいまったのです。

もちろん、性能・能力向上のための改善・改良が第2段階及びそれ以降のものとして今も続々と続いています。

これを裏返すと、イージス・システムというのは現有能力のみならず、その潜在能力もそれぐらい高い、すなわちイージス・システム開発当初のシステム・デザインが如何に優れたものであったのか、ということです。

このNTWの有効迎撃範囲がどれくらいか、というと ↓ のとおりです。




ここで注意していただきたいのは、ここで示す有効範囲は、図の位置のイージス艦が北朝鮮が発射した弾道弾を “この中で迎撃できる” (SM-3が命中する) というのではありません。  この範囲内に落下 (弾着) するように北朝鮮から飛翔して来るものを “途中の大気圏外で” 迎撃することができる、という意味ですのでお間違えのないように。

これをご覧いただいても、SM-3 を使用するイージス・システムによる NTW の有効範囲が如何に広いものかがお解りいただけると思います。


(注) : 本項で引用した画像は全て米軍の公式公開資料からです。







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最終更新 : 15/May/2017