対空戦・TMD

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PAC-3では23区は守れません




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昨今の北朝鮮による弾道ミサイルと核兵器の実験の情勢から、我が国でもこの弾道ミサイル防衛 (Ballistic Missile Defence、BMD) のことがマスコミやネットなどでも盛んに論じられているところです。

しかしながら、我が国の防衛構想としては従前の経緯からこのBMDについては何ら有意義なあり方が論じられることなく、陸・海・空自衛隊はそれぞれバラバラに進めてきました。 そして現在のところ具体化しているのが、海自のイージス艦と空自の PAC-3 です。 防衛省などの説明では、この2つをもって “縦深防禦” を構成しているのだそうです。

まあ何というか、イージス艦の SM-3と空自の PAC-3 のそれぞれの迎撃可能範囲を見比べたうえで、これが縦深防禦といえるようなものなのかと。

ハッキリ申し上げるならば、PAC-3 を朝霞に置こうと日比谷公園に置こうと、このシステムではとてもではありませんが東京23区全部を守ることなどは出来ません。 公表されているだけでも ↓ 程度の有効射程しかないんです。




( 上の図で示すイージス艦による 「Navy Area」 とは SM-2 Block IV A による大気圏内の対処可能範囲のものであり、海自も導入した SM-3 による大気圏外で対処する 「Navy Theater Wide」 ではありませんのでご注意を。 もちろん後者の方が桁違いに対処可能範囲が広いのですが、これについてはこの後で。)

しかもこの図は弾道弾が真っ直ぐ発射機の方位に向かって飛んで来る最良の場合を示しているのであって、発射機に対して針路が横方向にズレがある (クロスレンジ、Cross Range) がある場合にはもっと小さくなることはお解りいただけるでしょうかか? そしてこれ、朝霞に置いたら後ろの千代田区は到底守れないことも?

PAC-3 が移動式だからどうのこうの言う前に、元々の米軍においてどのような構想のものに、どのように運用されるものであるのかを考えていただければ、明らかなことでしょう。

そもそも PAC-3 とは何のためのシステムなのか?

米軍が遠征先 (国外展開先) で自軍の部隊を防禦するためのものです。 ( まあパトリオット・システムそのものが元々陸上部隊の防空用ですから、当たり前と言えば当たり前ですが。)

つまり、イージスは戦域ミサイル防衛 (TMD) 用のシステムの一つですが、PAC-3 は単なる自隊防空 (Point Defence) システムに過ぎないということです。




つまり、米国はアメリカ本土で PAC-3 などを使うつもりなど毛頭ありませんし、展開先においてさえ米軍自体が守れれば良いのであって、その外周にある展開国の人口密集地や重要施設などは全くの考慮外です。

そもそも先に示したとおり PAC-3 にはそんな能力はありませんから。 それこそ早い話が、艦艇の対艦ミサイル防禦でいう “CIWS” みたいなものです。 短SAMにさえ相当しません。

従って、部隊が移動したり、予想脅威方向が変化した時などには、常にそれに応じて最も効果が得られるようにその都度再展開・再配置し直さなければなりません。 ですから車載の移動型になっている。 当たり前のことなんです。

日本の本土防衛のための TMD の装備であるならば、“縦深防禦” というためには、直撃されるよりは増しという CIWS のようなシステムではなく、イージス・システムと釣り合うような槍先の長いものが必要なのです。

まあ、それでも無いよりは増しといえば、増しなのですが ・・・・


(注) : 本項で引用した画像は全て米軍の公式公開資料からです。







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最終更新 : 15/May/2017