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PAC-3では23区は守れません |
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その5 |
まあ如何なる一国家であろうと陸・空各軍であろうと、自分を守るための手段は自分で持ちたい、これはごく自然な要求でしょう。
では米国はBMD (弾道ミサイル防衛) についてどの様に考えているのか? それはその米国に対する脅威がどの様なものであると考えているのかを見れば解ります。
世界中で、というより米国の同盟国・友好国以外の国々で、長距離から短距離までの少なくともいずれかの弾道弾を保有している国及びその種類は、1972年では ↓ とされていました。
しかしこれが2001年には ↓ の様になったとされています。 (いずれもちょっと古い例ですが何故1972年と2001年でご説明するのかはこの後で。)
これが “弾道弾の脅威の拡散” といわれるものです。 しかしながら、これらの弾道弾の内訳をみると ↓ の様になります。
つまり、射程3000km以下の戦域弾道弾の “数” が弾道弾全体の75〜80%を占めていることが解ります。
これは何を意味するか? 米国にとっては、直接米本土に飛来するようなものは長距離 (大陸間、戦略) 弾道弾しか考えられません。 しかもそんなものを保有するのは極めて限定された国だけですし、もしそんなものを使うとなったらそれこそ第3次世界大戦です。
つまり、従来の大国に加えて、最近は北朝鮮のような訳の判らない “ならず者国家” がこの能力を持とうとしているから、米国が躍起になっているんです。
加えて、射程3000kmを越える戦略弾道弾は飛翔経路のほとんどが大気圏外であり、かつ弾頭の突入速度がそれ以下の射程の戦域弾道弾に比べて格段に速くなることは、それに対する技術的対処が非常に難しいことになりますから、弾道弾そのものを直接阻止するBMD方策は後回しになります。
それより、米国が超大国としての発言力を維持し、諸外国に軍事的コミットメントをするためには、先ず短・中距離弾道弾の脅威にさらされる遠征軍 (海外展開部隊) の防禦が最優先になります。 そして技術的にはこちらの方が容易です。
ですから、既存のものの改良であろうが新規開発であろうが、米国にとってはこちらの方、即ちそれらを大気圏内で迎撃するシステムの配備が最優先となるのは自然の成り行きだったのです。 例え PAC-3 の様な極めて有効射程の短いものであろうとも。
そしてそのPAC-3ですが、皆さんよくご存じのように、システムとしての構成は基本的に元々の対空ミサイルの時と同じです。
即ち、最小限の1射撃単位 (FU、Fire Unit) は、数基の発射機 (LS、Launching Station) とレーダー装置 (RS、Radar Set)、射撃管制装置 (ECS、Engagement Control Station)、発電機が各1基などです。
もちろんこれだけではほとんど何の役にも立たないことは申し上げるまでもありません。
まず、レーダーはフェイズド・アレイ1面の1基だけですから、そのカバー範囲は限定されたものでしかありません。 そしてそう、肝心な指揮管制システムがありません。 ECCというのは艦艇で言えば射撃指揮装置ですから、CIC/CDC に相当する部分が無いわけです。
したがって、少しでもまともに機能させるためには、これら射撃単位 (FU) を数個と、それらを統制するものが必要になります。
そして後者については、情報調整装置 (ICC、Information Coordination Central)、そして場合によっては (各FUとUHFが直接通じなければ) 無線中継装置が必要になります。
これでやっと始めて何とか “多少は” 使い物になるものになる部隊 ・ システムになりますが、1個大隊 (Battalion) という大きな構成になってしまいます。
それでもまだ指揮管制に必要な対空 (空域) 情報機能がありません。 これらは他のもの (例えば AWACS や BADGE などの本格的な上位防空組織) からの情報が必要となります。
で、考えてみて下さい。 やっとこれだけの機能を保持するために、予備品や整備機材も含めてどれだけの機材と人員が必要なのかを。 しかもその人員には食と住が最低限必要になりますし、部隊・個人としての日常的な品々も相当な量になります。 ( 当然ながら、更にこの1個大隊自身に対する展開地での防護措置・兵力や補給組織・部隊などが必要になりますが、これについては取り敢えず別にしておきます。)
したがって、その再展開・再配置には、その都度厖大な手間暇がかかることになるのは言うまでもありません。 一例を示しますと ↓ と言うことになります。
これでも、単に物を運び終わったというのに過ぎません。 その航空輸送能力でさえ、危機発生時や有事において猫の手も借りたい時に、たったこれだけの能力のPAC-3のためにどれだけ占有されることになるのか。
勿体ない、もっと他の方法・手段はないの? と考えるのは別に米海軍だけではないでしょう。
(注) : 本項で引用した画像は全て米軍の公式公開資料からです。
最終更新 : 15/May/2017