第9話 『広瀬、死す』 前編 |
第9話 『広瀬、死す』 の前半 (再放送の第17回) は日露開戦からタイトルの旅順港閉塞作戦で広瀬が戦死するまでですので、それこそ海軍関係も豊富です。
そして、私がこのNHK 「坂の上の雲」 に参画し始めてからドラマの製作というのは “凄い” と感じたのは、特にこの第9話からになります。
と言いますのも、私がロケ現場にお邪魔しただけでも約3年間になりますが、多くのロケ地で様々なシーンを撮影しております。 そしてこの第9話のように、時期も場所も異なる多数のカットを1つのシーンに纏めあげています。 ああ、このシーンはあの時のカットとこの時のものが繋ぎ合わさるんだ、という様に。
つまり、監督さん始めスタッフの皆さん一同がロケ前の打ち合わせの時から、この最終的な編集でどういう映像になり、どういう繋がるになるかを理解しつつロケでの撮影に臨んでいたと言うことです。
これは、通常の連続ドラマのように、ほぼ放映順にどんどん撮って、どんどん編集していく、と言うのとはちょっと異なります。 これは凄いですね。
で、順にどこのロケでのものを組み合わせたのかを中心に。
冒頭は東郷が開戦を告げるシーンから。
佐世保港に停泊する連合艦隊のCG画像のあと、前回最後の繰り返し部分を含めて
〇 近づく内火艇からみた「三笠」 : 加賀・元気劇場 (第2回 平成21年9月)
〇 「三笠」長官室での封書開封 : 東宝スタジオ・長官公室セット (平成22年1月)
〇 参集する内火艇 : 舞鶴東港 (平成21年6月)
〇 「三笠」 艦内での指揮官参集 : 東宝スタジオ・士官公室セット (平成22年1月)
この当方スタジオに作られた士官公室セットは、この後も様々な場面で出てきますが、「三笠」 の士官室でもなく長官公室などでもない、ちょっと不思議な部屋のセットになっています。
これは様々な艦内シーンで多目的に使うために美術さんが考えたもので、これはドラマにおける費用対効果上いたしかたないものかと。 しかしながら、内装の変更やカメラ・ワークによって、各シーンごとで効果的な艦内映像になっていると思います。
参集した指揮官と共に酒杯を上げるところで、監督さんが 「桜と錨さん、この時に何と掛け声をかけますか? 乾杯ではおかしいし ・・・・」 とのこと。 すかさず 「この場面では “いざ!” がピッタリでしょう」 、で即採用 (^_^)
〇 指揮官参集後の 「三笠」 艦上での真之と広瀬
艦内 : 記念艦三笠 (平成21年4月)
甲板上 : 加賀・元気劇場 (第2回 平成21年9月)
続いて連合艦隊の佐世保出港から旅順まで
〇 「三笠」 出港 : 加賀・元気劇場 (第2回 平成21年9月)
〇 見送りの内火艇 : 舞鶴東港 (平成21年6月)
〇 岸壁からの季子の見送り : 熊本三角港
〇 「三笠」 艦上の合戦準備 : 加賀・元気劇場 (第2回 平成21年9月)
〇 「三笠」 長官室での作戦会議 : 東宝スタジオ・長官公室セット (平成22年1月)
テーブル上に並べられている海図への書込は私の手書き V(^_^) 以後の回でも海図が使われているシーンは全て私の手書きが入っています。
続いて旅順港近くまで進出した聯合艦隊が旅順口を奇襲します。
〇 「三笠」 艦上 : 加賀・元気劇場 (第2回 平成21年9月)
〇 駆逐艦艦上 : 加賀・元気劇場 (第2回 平成21年9月
この駆逐艦のセットは、加賀・元気劇場さんの三笠セットの脇に急造された、それこそ駆逐艦の艦橋上を模擬した簡単な木製の台座のようなものです。 これの下に古タイヤを敷いて、人力でワッセワッセと揺らして動揺を表現しました。 あとは特殊効果とCGで (^_^) (この駆逐艦セットの写真を撮っていない ・・・・)
〇 真之の私室 : 東宝スタジオ・士官私室セット (平成22年1月)
真之が作戦計画を練っているシーンでの各種の作業紙なども、全て私の作成したものに撮影の時に本木氏が書き加えているのですが、この程度の写りなら私の字体でも違和感はそれほどないかと (^_^;
〇 広瀬の私室 : 東宝スタジオ・士官私室セット (平成22年1月)
真之のシーンと同じ士官私室セットですが、美術さんが内装を替えて違いを出しています。
〇 ボリスの載ったカッター : マルタ・浅プール(平成21年5月)
( 撮影前の昼間の事前練習風景 )
〇 戦艦 「ツザレウィッチ」 艦橋 : マルタ・ロシア艦セット(平成21年5月)
〇 「三笠」 長官公室 : 東宝スタジオ・長官公室セット (平成22年1月)
〇 駆逐艦艦上 : 加賀・元気劇場 (第2回 平成21年9月)
〇 雷撃を受けたロシア艦とその反撃 : 川口・模様替えロシア艦セット (平成21年2月)
〇 傾くロシア艦上の乗員達 : マルタ・福井丸セット利用 (平成21年5月)
セットをこのように ↓ 傾けて撮影しました。
〇 海面を泳ぐロシア乗員 : マルタ・浅プール(平成21年5月)
〇 真之の私室 : 東宝スタジオ・士官私室セット (平成22年1月)
旅順口奇襲では期待されたほどの戦果が出せなかったことから、連合艦隊司令部で爾後の作戦会議が開かれます。
〇 「三笠」 長官公室 : 東宝スタジオ・長官公室セット (平成22年1月)
この作戦会議で有馬が閉塞作戦を東郷に進言しますが、有馬 (加藤雅也氏) が海図上で最狭部にデバイダーをポンっと横に置いて閉塞を説明するところは、私が提案したものです。 なかなかいいでしょ (^_^)
今回の第9話前半 (再放送の第17回) はここまでですが、それにしても、これだけの数多くのカットの組合せが綿密に計画され、各ロケで撮影された上で、実に上手く編集されているものと感心します。
そしてこれらのカット、カットを繋ぐVFXも大変に良く出来ています。 連合艦隊の戦艦や駆逐艦などの各艦船、魚雷の発射と航走の場面も全てCGです。
なお、今回を始め以後の回で、旗旒信号が掲揚される場面があります。 これらの旗旒による信号は私が考証を担当したものですが、一番困ったのは、シーンに合う正確な信号符字が不明なものがあります。 そこで、残された史料から最も近いものを組み合わせて使うことに。
そしてもう一つは、大部分の旗は現在でも同じものですので市販のものが使えるのですが、中には当時の古い国際信号旗や旧海軍独自の旗が出てきます。 これらについては、美術さんにお願いして、必要最小限のものを特注で作ってもらいました。
小さいことですが、考証が確かに入っているということでは大切な問題です。 この辺もNHKさんは手抜きはしていません。
さて、いよいよ次回は旅順口閉塞作戦で、このドラマでの見せ場の一つですね。
最終更新 : 02/Jul/2017