第5話 『留学生』 後編 |
第5話 『留学生』 の後半 (再放送の第10回) もタイトルのとおり、真之の米国留学と広瀬武夫のロシア留学がメインで、海外ロケのものが中心になります。
とは言っても、真之と高橋是清のナイアガラ見物のシーンは日光でのロケであったり、サンチャゴ沖の 「セグランサ号」 船上のシーンは横浜の 「日本丸」 であったりしますが (^_^;
そして私は、というより部外のアドバイザーは誰も、これらの海外及び国内ロケに参加しておりません。 こういう時に限って何かあるんですよね ・・・・
で、この第5話 の後半で最も痛いミスは、ロシア・ロケのところです。 皆さんはお気づきになられましたでしょうか?
そうです、広瀬武夫海軍大尉 (藤本隆宏氏) と一緒に出てくる八代六郎海軍少佐 (片岡鶴太郎氏) の袖の階級章が違うんです。
( 元画像 : NHKさんの広報写真より )
旧海軍では、明治19年に英国海軍に倣って中佐と中尉の階級を廃止しました。 しかし結局これでは組織運営が上手くいかないことから、明治30年9月に再度この中佐及び中尉の階級が復活しました。 この復活にあたり、中佐の階級章は3本線の少佐の階級章の下に細い1本線を加えた、いわゆる “3本半” としたのです。 これは明治19年に一旦廃止されるまでのものと同じです。
( 明治30年〜明治40年の中佐及び少佐の階級章 )
そしてこの少佐と中佐の階級章が、現在でも通用する、というか世界の海軍士官の一般的な階級章である、少佐が2本半、中佐が3本となるのは明治40年の事です。
( 明治40年以降の中佐及び少佐の階級章 )
今回の第5話 『留学生』 後半 (再放送の第10回) では、明治30年〜31年にかけてのオペラ・ホールでの観劇シーンと貴族の館での舞踏会シーンの2つにおいて、八代の階級章が明治40年以降のものになってしまっており、当時の “3本” のものではありません。 両シーンともちょっと長いので、結構目立つだけに残念なところ。
服装考証担当の柳生悦子氏は旧海軍の服装についての第一人者ですので、撮影シーンの設定がチキンと伝わっていれば、こんなことをお間違えになるはずはありません。 当時柳生氏はお体の都合で在宅でのご指導でしたので、おそらく美術スタッフとのやり取りの中、どこかで行き違いになってしまったものと推察されます。
もちろん私がこれを知ったのはロケ隊の帰国後ですので、もう既に撮り直しはできませんし、流石のVFXさんでもこれを修正するのは困難なことです。 したがって、これらのシーンは誤りを承知の上で止む無く。 この点はNHKさんに代わってこの場で皆さんにお詫びしなければなりません m(_ _)m
でもこのように書くと、中には “たかだか衣裳の階級章ぐらいで” と思われる方がおられるかもしれません。
しかしながら、ドラマにおいて軍人役を演じる場合、階級というのはその役柄の原点です。 いかに俳優さんの名演技があっても、画面効果としてはロケセットの細かいところの出来がうんぬんなどと言うよりはるかに重要なことの一つと、私は思います。
なお、八代六郎はロシア滞在中の明治30年12月に中佐に進級しておりますが、ロシア・ロケでは衣装を少佐と中佐の2着も用意するのは大変ですので、ドラマでは2つのシーンとも設定期日を明確にせずに少佐のままとしております。 これは致し方ないことかと。
さて、NHKドラマスペシャル 『坂の上の雲』 は平成21年に第1部が放送されましたが、その第1部は第1話からこの第5話まででした。 そして次の第2部の放送は1年後の平成22年の12月となりました。
制作をお手伝いした一人としても、この1年間の待ちは長かったですね (^_^)
最終更新 : 02/Jul/2017