解説 : 「一般計画要領書」について(その3)



 「造工資料」とは



これら「一般計画要領書」は造船工業会資料、いわゆる 造工資料 の一部として造船各社に配布されましたが、その時期は次のような文書により昭和28年4月から12月だったことが分かります。  ただし、配布先は書かれていません。 なお、約8ヵ月後の昭和29年7月に空母関係の図面が配布されていますが、配布先が書かれていることから、この配布は希望する造船所だけと思われ、一連の配布の最後のものとも考えられるので取り上げてみました。


「造船技術資料部会配布資料目録」(造船資料・第一次)(28−4−29)

1.設計資料 − 船体部計画内規、復原性能比較表、既成艦船船体部重量表、軍艦基本計画資料

2.駆逐艦(1/2) − 白露型F45D, 朝潮型F48, 陽炎型F49, 夕雲型F50, 秋月型F51の各々の艦型の一艦ずつの要目簿や一般艤装図、中央切断、線図関係、計算、船殻 艤装関係の図面名


以下、同様に次のように続きます。


 (造船資料・第二次)(28−4−30)
 (造船資料・第一次追加)(28−6−8)
 (造船資料・第三次)(28−6−8)
 (造船資料・第一次の追加(第二回))(28−9− 25)
 (造船資料・第二次、第三次追加)(28−9−1)
 (造船資料・第四次)(28−9−10)
 ・・・第五次は欠・・・
 (造船資料・第六次)(日付の記載なし)
 (造船資料・第七次)(日付の記載なし)
     (ただし、次の「第七次の追加」には、第七次は28−9−12と記載されている)
 (造船資料・第七次の追加)(28−12−1)
 (造船資料・第八次)(日付の記載なし)
     (ただし、次の「第八次の追加」には、第八次は28−9−12と記載されている)
 (造船資料・第八次の追加)(28−12−1)
 (造船資料・第九次)(28−12−8)


これにより配布された資料は、「第一次」に示す図面の追加のほかに、計画・方針説明書、設計資料、一般資料、審議資料、入渠資料、各種成績表、基本計画概案、造修法規や海軍艦船艤装規定、海軍造船工作法、規則、装置や装置標準などの制式・標準・規定関係、造兵関連資料、機関計画要領書(これは戦艦以下、全ての艦種にわたっているが全艦艇はない)、軍艦構造及艤装(本文)(付図、付表)、等々・・・です。

今回ここで公開された「一般計画要領書」は、「第六次」と「第七次」で配布 されています。 また他にも、個艦の「一般計画要領書」として「海防艇(甲)1号型」や「筑紫」があります。

「第九次」の後、7ヵ月ほど過ぎてから、タイトルは「造船技術資料部会発表(第二次資料)(29−7−27)(日本造船工業会技術部)」と変わって、配布図面は空母関係で、次のものなどが配布されています。


   「赤城」「加賀」の一般配置図
   「蒼龍」「飛龍」「瑞鶴」「瑞鳳」「千歳」「千代田」などの一般大体艤装図
   「大鳳」の概略一般艤装図
   飛行甲板比較図


配布先は「川崎、佐世保、浦賀、新三菱、石川島、三菱日本、三井、海幕、技研 各資料部会委員殿」ですが、造工からの「資料配布目録」関係の文書は、これ以後のものは佐世保船舶には残っていないと思われます。 しかし、このほかにも「資料送付目録」などには含まれていない種々の資料があるので、前記の「第二次資料」の後にも引き続いて資料が配布されていたのかもしれません。

なお、「飛行甲板比較図」など、これらのうちの幾つかは後に福井氏の著作関係にも記載されています。

ここに示した造工の配布資料などとともに、福井氏所蔵の全ての資料は呉市に売却されて大和ミュージアムに保管されているので、これら造工資料の図面は米国からの返還図面と併せて既に公開されていると思わます。 ただし、造工資料と返還図面の中でも最優先で公開して欲しい多数の 「要目簿」 は、大和ミュージアムで公開されているのかは分かりません


ここから後は蛇足になりますが、「日本の軍艦」(福井静夫著 出版協同社)の刊行以来、付表に記載の各艦種ごとに示されている艦艇要目の数値は何を根拠に、何に基づいた数字かということを知りたかったのですが、「一般計画要領書」を入手した時に照合してみて、少なくとも今回公開の艦種については一般計画要領書の数値と同じであり、これに拠るものと思われます。

「一般計画要領書」は艦艇の建造前に建造のために作成された図面・文書ですから、その意味では艤装大体図はあくまでも艤装大体図であり、一般計画要領書記載の数値や艤装大体図は厳密には建造された艦艇と同じ数値や形態を示す図面とは言えないと思われます。

建造された艦艇を正しく示すものは「要目簿」であり、「完成図」と考えていますが、これは個々の艦艇を示すためのものであって、ある艦型を総合的に示すものであれば一般計画要領書ということになるのでしょう。

したがって、完成図などの資料がないため艤装大体図を基にして竣工時の図を作成する時にはさらなる検討が必要と考えていますが、基本的には各々の資料が「建造前の計画段階のもの」と、「建造後の実際のもの」であることを承知していれば良いと思います。

この例として、これまで多くの文献に示されている航続距離は、「一般計画要領書」を見ても分かるように全て計画値であり、実際の数値を示すものではありません。

わざわざこのように断ったのは、「ある艦型の要目を示す場合には航続距離は計画値で示すしかない」と思われますが、実際の航続距離は各艦の要目簿、公試成績表や審議資料などを参照するほかにないこと、計画値と実際の値が大きく異なる艦があることを分かって頂きたいということです。


次回は潜水艦の一般計画要領書のことを少しだけと、それに関係する話を書かせてください。



(その4)へ続く





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最終更新 : 04/Dec/2008