『 兵器学教科書　九四式四十糎砲塔 』・『 同 付図 』

（横須賀海軍砲術学校　昭和１８年）

「九四式四十糎砲」 とは申し上げるまでもなく「大和」型に搭載された４６センチ砲のことです。　その三連装である 「九四式四十糎砲塔」 について、昭和１８年に横須賀海軍砲術学校が高等科砲術学生（大口径砲班）及び特修科砲術練習生用に作成した構造・作動の概要についての兵器学教科書が本史料になります。

この兵器学教科書及び同付図は海上自衛隊第１術科学校が昭和３２年に所有者から寄贈を受けて教官・学生の教育研究用として保管していたものですが、原勝洋氏が聞きつけて “国民の財産だから見せろ！” と言って強引に借り出した上で、それを全頁複写し、平成４年に “歴史的発見！　貴重文書　完全復刻” と銘打ってその全頁を 『決戦戦艦　大和の全貌』 として出版したものです。

（ 『決戦戦艦　大和の全貌』 の表紙 ）　

しかしながら、これは同本の中の後半の第二部ですし、しかもＡ５版サイズの本に、教科書は１頁に見開き二段、付図は頁のレイアウトに合わせてそれぞれ大変小さなものに縮小しております。　このため、一般の方々なら “ふ〜ん、そんなものだったのか” と眺めるだけで良いのでしょうが、ちょっと興味をある方ならそれこそ虫眼鏡でもなければとても読む気にはなれないようなものです。 　まあこれは、商業出版ということからは致し方ない面もあるとは言えるでしょう。

（ 同書の内容例　134−135頁の見開き ）　

ところが、そのサイズの小ささに加えて、最大の難点が、正確な意味では “完全な複製ではない” ということです。　と言いますのも、同教科書及び付図は元々ホッチキス止めにされていたものなのですが、特に付図は中にはそのＢ４用紙一杯一杯に書かれたものがあり、史料を開いた状態ではその綴じ代部分に複写できないところが生じてしまいまうからです。　そして、原本の書き込みなども正しく元通りには修正されていません。　その一例を示すと、次の第二十図の原本と同一部分です。

　　　　　　

（ 左が同書の図　　右が原本の正規の図 ）　

しかしながら、このホッチキスの針は経年変化によって錆が出て、その綴じたところの紙自体がボロボロになってきておりますので、海自１術校では、一旦これをバラして錆びたホッチキスの針とボロボロになった紙の部分を除去し、再度糸をもって製本し直しました。

現在、呉の 「大和ミュージアム」 に貸し出している本史料はこの状態のものですが、同ミュージアムでは展示しているだけで、旧海軍史料として完全な複製版などを作る意図は無いようです。

その一方で、海自では修復・再製本する作業をするときに、万一のためもあってバラした付図一枚一枚の完全版の複製を採っておいたのです。　（随分昔の事ですので、これが現在も残っているのかどうかは知りません。　おそらく再製本が無事終わったあと、しばらくして破棄したのではと思われますが ・・・・ ？）

私が所持するものは、この海自が作成した複製をコピーしたものですが、残念ながら当時の利用できる複写機の制約もあって、付図のＢ４版はＡ４版に縮小したものとせざるを得ませんでしたし、かつ元史料の紙質と印刷の関係で複製自体もあまり綺麗なものではありませんでしたので、私のコピーも大変見難いものとなっております。

そこで、今回、ご来訪７０万名達成記念もあって、手持ちのＡ４版コピーを６００dpi にてディジタル化し、整形とゴミ取りをしました。　また、付図は基本がＢ４版ですが、中にはこのＢ４サイズより横方向に長い図がかなり含まれておりまして、これは海自の複製版でもＢ４サイズで分割したものとなっておりますので、今回のディジタル化に当たりこれを合成して元の一枚の図としております。　また併せて、元のＢ４版の複製時からのゴミや、不要・余分な書き込みなどを除去しております。

が ・・・・・ 結局のところ大変な手間暇がかかるものとなってしまいました （^_^）　　とは言え、ここまで明確で詳細な完全版は他にはないと自負しております。

（令和４年１０月３０日追記） ： 海人社さんのご尽力により、この度管理人の 『兵器学教科書　九四式四十糎砲塔』 及び 『同　付図』 の全ページが 「世界の艦船」 １１月号増刊の 『傑作軍艦アーカイブ・スペシャル　大和型戦艦主砲塔図面集』 として刊行 されました。　Ｂ５版ですが、教科書の本文は十分に読めるサイズですし、付図は原本の綴じ代にかかる部分もすべて再現しており、本当の意味での “完全復刻” といえるものになっております。　どうかこの貴重な史料をじっくりとご覧になっていただきたいと存じます。

もちろん、元々が大変に専門的な内容のものですが、元の６００ｄｐｉのもので研究されたい方がおられましたら、これまでどおり史料は完全な “on demand” 方式とさせていただきます。

もし、研究者又は専門家の方々、あるいは出版関係の方でご要望がある場合には、お申し出いただければその必要性やご事情などの状況をみて考慮させていただきます。　もちろん、全体でも良いですし、あるいは特定の頁でも構いません。