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ご来訪24万名達成記念企画


『海軍基本戦術 第二編』 (秋山真之、明治40年?)


ここで公開しますのは、秋山真之 (海兵17期) が明治36年から明治39年にかけて海軍大学校の第4期及び第5期将校科甲種学生に対する講義内容を纏めたもので、先に公開した第一編の続編です。


残念ながら本史料には編纂日付が記されておりませんのが、内容的には日露戦争の戦訓、及びその後の状況・情勢の変化が取り入れられており、また史料そのものの状態から講義速記に手が加えられたもので、少なくとも第4期学生の講義終了以降のものであることは確実です。(注1)


ここでは海軍大学校第10期甲種学生であった藤田尚徳氏の保有されていた原典と、これに基づく活字起こし版の2つを公開します。(注2)


本史料の内容についての細かな解説及び所見などについては、機会があればまた別に行いたいと思いますが、まずはこの第1級の史料を存分にお楽しみいただきたいと存じます。


ただし、いつも申し上げているように、本史料は本来が実務経歴もそれなりにある海軍大尉クラスを対象とする内容のものですから、現在の研究者の人達がこれを読みこなすには相当の知識と感覚が要求されることは間違いありません。


そのことを忘れて、論文書きなどでよく見られるように、元史料の一部の文言だけを好きなように取り上げて勝手な解釈をするようなことをすると、とんでもないことになりかねないことには注意が必要です。


PDF形式にてその全頁を公開 いたします。 本史料の内容は一般刊行物においては既に幾つかのもので紹介されておりますが、ネット上も含め 原本そのものの形で公開したものは本邦初 である思います。


ただし、ご存じのとおりのネット事情により、大変残念ながら印刷及び加工については不可の設定としており、また表紙を除く各頁にロゴの透かしを入れています。  もし研究者の方で印刷可能バージョンなどのご希望がございましたら掲示板又はメールなどでお聞かせ下されば考慮いたします。


勿論、公開いたしますファイルは、このままの形でしたら再配布などはご自由になされて結構です。




『海軍基本戦術 第二編』
史料原典版 活字起こし版
(4.2Mバイト) (3Mバイト)


 

(注1) : 本史料の出所、作成時期などについて


秋山真之の海軍大学校における 『海軍基本戦術』 の講義は、第4期及び第5期の将校科甲種学生に対して行われましたので、
    第4期 : 明治35年7月〜36年10月、38年12月〜39年7月
    第5期 : 明治39年1月〜40年12月
の間のことになります。


これに関連して、秋山真之の 『海軍基本戦術 第二編』 の講義録には、次の版が現存するとされています。
    明治39年2月とされるもの
    上記に校正及び推敲が加えられたもの
    明治41年の第一編第二版と一緒に綴じられているもの (15頁のみ)
    大正期の改訂版と考えられるもの


この他、明治40年版の第一編活字版の表紙裏書きでは 「巻数2」 とされていますので、以上の他にこの第二編の活字版があった可能性が無いわけではありませんが、少なくともその印刷用原稿が存在したであろうことは想像されます。


明治39年2月とされるものは、第4期生に対する講義速記録を印刷したもので、本講義の最初の印刷物と考えられます。


ここで公開しますものは、元々が藤田尚徳氏 (海兵29期) 所蔵のもののコピーに基づいていますが、ご覧いただけばお判りのように、上記39年2月版のものにかなり校正及び推敲の手が入ったものです。


ただし、これらの書き込みが全て秋山真之自身の手によるものかどうかは不明です。 書き込みの細部を見ますと、秋山真之以外の者によると考える方が自然な箇所も散見されるからです。


そしていつの段階のものであり、いつ印刷されたものであるのかは、残念ながら記載がありませんので不明です。 最も考えられるのが、39年2月の講義速記版を元にした第5期生用のもの、あるいは明治40年の活字版用の印刷原稿ですが、後者については内容的にも、そして項立てが整えられていないことなどを考慮するとこれとするには疑問が残ります。


明治41年のものとされるものについては私は未見ですが、15頁とされることから本史料とは全く異なります。


また大正期の改訂版とされるものについても私は未見ですが、第1次大戦の戦訓などが含まれているとされていることから、もしそうであるならばこれとは全くの別のものと言えます。


本史料の元々の所有者である藤田尚徳氏は第10期の甲種学生 (明治43年12月〜45年5月) として入校しております。 この時期には既に秋山真之の 『海軍基本戦術』 に替わり松村菊勇中佐 (当時、海兵23期) による新たな 『海軍戦術』 の講義が行われており、これの講義資料が現存しています。


これからすると、恐らく藤田尚徳氏は本史料をその 『海軍戦術』 の参考資料 (比較用) として入手したものではないかと考えられます。 とすると、時期的なことからは明治40年の活字版の原稿を印刷したものもなかったのかということになりますが ・・・・?


何れにしましても、秋山真之の 『海軍基本戦術』 の講義録については、第一編及び第二編ともに更なる調査と細部検討の余地が残されていることは間違いありません。 ただし今となっては、今後新たな原典史料が出てくることはあまり考えられないことではありますが。


なお、ここで公開しますものは先にも申し上げましたが、私の手元にある藤田尚徳氏所蔵のものの古いコピーであるため大変に見難いものであり、とてもそのままでは公開に堪えられませんので、ディジタル化にあたり全頁ゴミ取りによる文字出しを行いました。 これには約3ヶ月の作業を要しました。





このため、完全に元の史料のままの復元では無い部分がありますことをお断りいたします。 ただし、少なくとも原本の本文部分を総てそのままディジタル化したものが公開されるのは本邦で始めてのことであり、秋山真之の当時の講義の雰囲気を十二分に感じ取っていただけるものと考えています。



 

(注2) : 活字起こし版について


海軍大学校第10期甲種学生であった藤田尚徳氏の保有されていた原典は、ご覧いただいておわかりのように、元々が手書きである上にかなりの校正が加筆されています。


加えて、管理人の保有しておりますものは、原典史料のコピー (のコピー) であるため大変に見難くなっております。


つきましては読みやすくするために、この原典に基づき管理人が活字起こしをしたものを合わせて公開いたします。


この活字起こし版の中でも記注しておりますが、単に原典をそのまま活字にするだけではなく、その原文の確実を期するために、戸高一成氏が活字起こしをされて出版された 『秋山真之戦術論集』 (中央公論社、平成17年) と比較して、それとの違いを明記 いたしました。


戸高一成氏版との違いで、同書にある文言で本原典版と異なるところは (赤字) で、また逆に原典版にある文言で戸高一成氏版と異なるところは 緑太字 で示しております。


両者の違いについての個々の解説は全て省略いたしますが、これはお読みいただけばどちらが文意の筋が通るかは明らかと思いますので、その正誤についてのご判断は皆さんにお任せいたします。










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 最終更新 : 09/Sep/2012